still life
最近、読書を再開した。
今読んでいるのは佐藤泰志の「海炭市叙景」
海炭市というのは佐藤が生まれ、高校まで過ごし、一時帰ってきた街である函館をモデルにした架空の都市であり、そこで暮らす市井の人々の営みが短編で連なっていくという作りになっている。
映画化された際の予告編のイメージが頭に残っていたので原作を手に取ってみたのだ。
最近、オチやプロットがきっちりしている小説にはうんざりしていた。
昔は長い小説を筋を追いながらごりごり速読することに血道をあげていたけど
今はゆっくり、文章を味わいながら作者がそのセンテンスに込めた仕掛けや思いに想像を働かせる。
佐藤は作家をしながら生活のために様々な職業を転々とし、家族をなしていた。
だから市井の人々の描写は、いきいきとしている。
「海炭市~」は、家族を持ち、作品が文学賞候補になったりする間に帰郷した函館での1年間の経験がベースになって書かれたものと言う。
結局、この小説は未完のまま、佐藤は41歳で自裁してしまう。
「海炭市~」は正直、粗い部分もあると個人的には思うがそれを補って余りある、全体を通して伝わる静謐感がとても心地よい。まるで、深い海の底でなんの雑音もないなか、ゆっくり朽ちていくような感じ。
ミステリの手法を、読者を引き付けるための麻薬にするようなエセ文学とは違う小説を読みたいなら、候補にしてもよいと思う。